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    ノスタルジックが大好きな平成ブロガーの散文

65日かけて「退職届」を書いた話。あるいは年の離れた友人の話。

気づけば、65日である。

 

なんのこっちゃと言うと、ものの見事にブログを放置して65日なのである。

65日と言うと軽く2ヶ月弱。

気づけば冬も終わって、桜が咲いて、なんならジワジワと夏の足音なんて聞こえてきたりする。

 

そんな季節の変化に押されたわけではないのだけれど、生まれて初めて「退職届」なんてものを出してきた。

この2ヶ月間。こんなA4三つ折の紙切れを出すために延々と悩んでいたのだ。

 

 

 

 

そもそも休職してどえりゃー色んな人に迷惑をかけて……なんて思いつつも、アホ程なハードワークのせいで体調を崩した、という事実もあったり。

 

じゃあ、「退職届」を出して清々しいのか……と言われれば、後ろ髪引かれるところもあったり。

 

ハードな職場であったことは確かなのだけれど、「ブラック」だけとは言い切れない何かがあったんだろうなあ、と思う。

 

別に社畜精神に毒されてるわけではなくて(少なくとも僕はそう思っている)、それ以上に周りの人に恵まれたのが大きいのだと思う。

 

 

 

ちょうどこのブログを始めたのが体調を崩し、休職に入った頃。

その頃は早く現場に復帰しなければ、という思いばかりが募って、毎日胃がキリキリするわ眠れないわで何のために休職しているのか分からないような状況だった。

 

同僚や部下からは見舞いにかこつけた仕事の相談の連絡は来るし、僕が休んでいることを知らない取引先からの連絡も来る。

そんな、なんやかんやがやっと落ち着いた頃、Aさんから連絡が来た。

 

Aさんは同じ職場で、僕より一回りも二回りも年上。

殆ど僕の親と同年代くらいの人。

こう言っちゃなんだけど僕が知っている「大人」の中で郡を抜いてはっちゃけてる人だった。

こんなご時世だけど酒と煙草を愛し、隙あらば飲みに行こうとする。

かと思えば仕事に関しては天才的で、まるで少年みたいな眼で楽しそうに仕事をする。

ただ、あまりにも自由過ぎて僕を含め周りは何度振り回されたか分からない。

でもなんでか知らないけど最終的には笑えて、自分達も楽しんでしまう。

そんな不思議なはっちゃけてる人だった。

 

 

そんなAさんから飲みに行こう、と誘われた。

本気で迷った。

僕が休むことによってツケが回ってきていないはずがないから。

そんなこっちの心持を見透かしたのか、こんな事を言ってきた。

 

「友達と飲むんだから、悩むことはないだろ」

 

殆ど息子みたいな年齢の人間に向かって、あっけらかんと言い放った。

まったくズルい少年ジジイである。

 

 

 それからと言うもの、次第に他の会社の人達からの連絡が薄くなっていく中で、この一回りも二回りも年の離れた「友達」は事あるごとに僕を飲みに連れ出した。

というか、僕を口実にしてキャバクラやらスナックやらに繰り出していた。

それはまるでAさんと仕事をしてた時の振り回されている感覚に似ていたけれど、やっぱり不思議と嫌な感じはしなかった。

 

ただ、恐らく職場から僕の存在が薄くなっていくように、僕自身の中でも「もうあの職には戻れないだろうな」という感覚が日に日に増して行くのも感じていた。

 

仕事自体は嫌いじゃない。

なんならまたAさんとだって仕事がしたい。

でも、そもそも果たして本当にやりたいことだったんだろうか?

Aさんはあっけらかんと「これが俺のやりたい仕事」と言ってのける。

だからどんだけハードワークだろうと、むしろ楽しんでやれる。

それどころか「死ぬなら、定年退職なんかしないで仕事しながらが良いなあ」なんて笑って言ってのける。

じゃあ、僕は?

 

 

65日。

おおよそ2ヶ月。

 

最初の一ヶ月は本気で今の仕事について考えてみた。

それこそ生まれて初めてのちゃんとした面接から、右も左も分からない新入社員だった頃。

少し自信がついてきた頃。

初めて部下を持った頃。

そして、これから。

 

良いのか悪いのか分からないけど、殆ど生活の全てを仕事に捧げてきた。

正直、上のポジションだって具体的に見えていた。

でもそれが祟って体調を崩し、休職に陥った。

果たしてそれで幸せなのだろうか?

青臭いけれど、これが僕の本当にやりたかったことなのだろうか?

 

Aさんだったら笑って「本望だ」なんて言うだろう。

この仕事が心の底から好きだから。

じゃあ僕は?

 

 

2ヶ月目。

Aさんから「花見をしよう」と連絡が来た。

ここのところ誘いを断ってばかりだったから「桜が散る前にな」なんて屈託なく笑いながら。

 

会社の中でも特に僕とAさんと仲が良かった「友達」が数人集まって、賑やかな会だった。

その席の中で、Aさんが僕が休職になって以来、初めて仕事の話をふってきた。

「言っとくこと、あるんだろ?」

咎める風でもなく、いつもの少年みたいな目だった。

大体こういう目をしている時は、この後どうなるか分かっている時だった。

だから僕は、情けない話だけど安心して「はい。辞めます」と皆の前で言えた。

二回りも年の離れた友達は「そうかそうか」と何故か嬉しそうに僕のお猪口に日本酒を注いでくれた。

 

 

 

 

 

……そんなわけで。

気づけば65日である。

生まれて初めて「退職届」を書いたわけだから、生まれて初めての「転職活動」なわけである。

次の仕事が決まってから退職した方が賢いのだけれど、なんだかあの日本酒を飲んだ時にケジメはつけなければ、と思ってしまったわけである。

散々っぱら悩んだくせに、正直未練だって未だにタラタラ。

でも、だからこそのケジメでもある。

 

馬鹿なのは重々承知だけれど……というか早く決めなければ晴れて無職なのだけれど。

年の離れた友人に背中を押して貰ったから、急ぎつつも慎重に。

願わくばその友人に笑顔で報告できるように。

若干冷や汗をかきながら、絶賛転職活動中。

 
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散文でした。